今回は前回に引き続き、Church’s(チャーチ)のDiplomat(ディプロマット)のお話をしていきます。
ディプロマットは1945年に誕生し、現在に至るまでチャーチの代表モデルとして人気を獲得してきました。
ディプロマットはチャーチの人気を支え続けてきた傑作ともいえ、世界中の靴ブランドを眺めてみても、これほどごくごく普通なのにバッチリと男性らしさが出せて、そして普遍性を兼ね備えたセミブローグの靴は他にはありません。
さて、一口にディプロマットといいましても、その年代ごとに若干の仕様変更が認められます。
いわゆる旧チャーチと呼ばれる、ラスト73を使用したプラダ買収前のモデルにおいても、微妙に違うのです。
今回はディプロマットの微妙な変化を紹介していきたいと思います。
ディプロマットは微妙に変化しています
一番左から旧旧ディプロマット、旧ディプロマット、そして写真一番右が現行のディプロマットになっています。もちろん一般的に話題に上がりやすい革質の違いというのもありますが、微妙にデザインも変わっているのです。
少し離れたところから見ると、あまり変わらないように見えるので、近くで見てみましょう。
目次
旧旧チャーチのディプロマット
コバの張り出しは強くありません。
チャーチ=コバが張り出しているの方程式が崩れるような感じです。
ボールジョイント部分だけ微妙に張り出しており、エイのひれのように見えます。
特筆する部分はメダリオンがキャップの面積を目一杯覆っており、またキャップが短く設定されています。
メダリオンの小穴はつま先からコバへと落ちる部分にもついています。
そしてスクエアトウが強調されています。
革はとてもきれいで、透き通っているものの、近くで見るとこのような細かい皺がたくさん出ています。
これは当時からそうなのかどうかはわかりかねますが、旧旧以前のチャーチの革はこのような皺がつきますので、そういった革の特性だったのでしょう。
そしてやはり、過ぎ去った年月の重みがこのような皺を作らせる(この旧旧ディプロマットはデッドストックから履き下ろしたので、皺は私が履いて初めてつきました。)のかもしれません。
デッドストックの靴の傷みは見た目では判断できないと、何度もこのサイトにて紹介していますが、このディプロマットも例に漏れず、なんと土踏まずの部分にできた皺から、クラックが入りました。
まだ履いて1年ほどですが、これが時間の流れの重みなのかもしれません。
甲の部分も縦方向に細かい皺が出ており、なんだか長持ちしなさそうな気配がプンプンしています。
革自体は厚みはそこまで感じられませんが、非常にしなやかで柔らかさが桁違いです。旧チャーチは今は亡きイギリスのタンナー、ピポディの革を使っていたと言われていますが、昔はそれこそピポディ以外のタンナーも多かったでしょうし、今となっては実際この時代のチャーチがどこのタンナーの革を使っていたかはわかりません。
旧チャーチのディプロマット
旧チャーチのディプロマットはメダリオンがキャップの面積に対して、気持ち余裕があります。コバの張り出しは旧旧同様、そこまで強くありません。
ステッチの細かさはさほど変わらないでしょうか。
そしてこちらの革ですが、旧旧ディプロマットのような粗い細かい皺は出ません。
やはりこちらのほうがコンディションも良いのだと思われます。正直、この革の方がいいものだとさえ思います。
柔らかさは旧旧ディプロマットと変わりません。革の質感や皺の出方の違いは気になります。
この旧ディプロマットはピポディの革を使っていたのでしょうか。その可能性は高いように思います。
旧旧ディプロマットと旧ディプロマットの比較
さて、同じラスト73のディプロマットのはずですが、これだけを見ても違いがいくつか発見することができました。
そこで、改めてこの2つのディプロマットを比較してみましょう。
写真向かって左(右足)が旧旧ディプロマット、右(左足)が旧ディプロマットです。
ステッチの細かさなどは、さほど変わらないです。ピンギングの処理が旧旧ディプロマットの方がより丁寧でしょうか。コバの張り出しは旧旧の方がより控えめになっています。
さて、ここで目につく何より違うポイントはトウの形です!
本当に同じラストなのか?と思うくらい、形が違います。旧旧ディプロマットはスクエアトウに対して、旧ディプロマットは少しラウンドしているように見えます。
また、キャップの面積も違います。
実際に履くと、旧旧ディプロマットは指先周りが広く、ストレスが少ないのです。しかし、若干捨て寸は詰まって感じます。
もしかしたら、ラスト73もリーバイス501さながらマイナーチェンジを繰り返していたのかもしれません。そしてその可能性は高いと思います。
現行のディプロマット
そして現行のディプロマットです。
ラスト173なので、ラスト73そもそもラストが違います。
やはり雰囲気は変わりますが、旧旧ディプロマットと旧ディプロマットの間のようなトウの形をしています。
ひとつとして、同じディプロマットはありません。
コバは張り出しており、雰囲気が変わります。
このコバの張り出しこそ、チャーチ=コバが張り出している
というイメージを作っているのでしょう。
しかし、このように見ると、現行のチャーチの革質は確か下がっており、ちょっと残念です。
正直現在の革は、チャーチに限らず質がちょっと下がり気味なので、現行のチャーチの革は、現在において十分に質の高い革を使っています。
チャーチはタンナーを明かしませんが、ワインハイマーの上級ランクあたりの革を使っているのではないかと個人的に思います。
出し縫いのステッチは特に大味になっています。そこが武骨でいいと感じるところもありますが。
ラスト173にラストが変更されていることによって、履き心地は大きく変わっています。具体的には捨て寸が靴の中でしっかりと取られるようになり、見た目の短さを出来る限り保ったまま、履き心地の改善に努めているのがよくわかります。
インナーもキャンバスライニングではなく、レザーライニングになっているため、時間をかけた時の履き馴染んだ感じは、キャンバスライニングの旧ディプロマットよりも、現行のものの方が心地よくあります。
同じディプロマットだと思わないように
さて、新旧のディプロマットの比較をしてきました。
同じメーカーが長年作り続けてきた永遠の看板メニューですが、時代によっての微妙な変化はやはりあるようです。
しかし、やはり永遠の看板メニュー。
しっかりとした価値観を保ち続け、靴好き達の憧れの的でありつづけています。
私も4足目、5足目のディプロマットが欲しくなってきてしまいました…(笑)
最後まで読んでいただきありがとうございます。