以前、旧チャーチの品質についてと、オールソール記事を投稿しましたね。覚えていらっしゃいますでしょうか?
修理屋さんにお願いしていた、そのオールソールが仕上がったとの連絡を受け、先日受け取りに行ってきました。
今回お願いしたのはレンデンバッハでのオールソールです!
さて、このレンデンバッハソール、靴好きの中では名のしれたソール。
丈夫さに定評があるなど、色々と良い噂が絶えない高級レザーソールなのです。
しかし、噂とは裏腹に、実際にこのレンデンバッハでオールソールをしている人は少ないのではないでしょうか。
価格も10万円を軽く超える高級靴中の高級靴にしか採用されていないのが、ひとつの理由でしょう。
実際にレンデンバッハソールを採用しているブランドは、VASSやハインリッヒディンケラッカーなど、いずれも1足15万円近くはする靴ブランドです。
3万くらいで買った靴をオールソールするのに、買った時と近い値段でオールソールしようとはあまり思わないですもんね。
今回、折角の旧チャーチのオールソールをするということなので、色々なこだわりを出しつつ、奮発してみました。
今回の記事はレンデンバッハでのオールソールをレポートをお送りします。
目次
レンデンバッハとは?
レンデンバッハは、正式名称を「Joh.Rendenbach.jr」といいます。
ドイツのタンナーです。「JR」の表記も有名ですね。
電車じゃありませんよ(笑)
レンデンバッハはいわゆるオークバークと言われ、原皮の状態からオークバークタンニンで鞣されたもの。
タンニンといえば、お茶や柿の「渋」になるものです。
オークとは日本でいうところのブナやナラに当たり、家具やウィスキー、ワインの樽などに使われていることでも知られていますね。その樹皮のタンニンが鞣しに用いています。
このタンニンを使って鞣す方法は、動物の皮を衣類として使っていて、「布」というものを知らなかった古代人が試行錯誤のうえにその原型となる技術にたどり着きました。
冬の寒い時期、衣類として使っている「皮」が腐るのは恐ろしいものだったことでしょう。
ある時、炉の近くに置いた皮から血のにおいが消え、腐りにくくなることを知った原始人は、煙で原皮を燻すようになりました。これは最古の鞣し技術と言われる燻製なめしです。
こうして「皮」は「革」へと変貌していきます。
そして原始から古代に時代が移り、動植物の油を塗りこむことで皮が柔らかくなることを知った古代人は、なめしに動物性油脂やナタネ油を用いるようになりました。
さらにある時、倒木に寄り添って死んだ動物の皮が腐りにくいことに気づいた古代人は、草木と一緒に漬け込むことで皮がさらに柔らかく、長持ちすることに気づきます。
タンニンなめしの基礎とも言える植物エキスを用いたなめし技術の誕生です。
といっても、タンニン鞣しに使うタンニンだけを植物から抽出する技術は、古代人にはありませんでした。
タンニンなめしを正確な技術として確立したのは、イタリアのトスカーナ地方が発祥と言われています。
トスカーナに流れるアルノ川の潤沢な水と、タンニンを多く含む栗林に恵まれたこの地方は、今もタンナーが多いことで有名です。
そんな人類が長い年月をかけて紡いできた技術は、継承されて今日に至ります。
レンデンバッハは今なお昔ながらのオークバークタンニンを使用した鞣し方法をとっており、1年もの長い時間をかけて鞣しています。時間をかけて鞣した革は、次第に革の繊維の目が詰まり、丈夫で減りにくい底材になるのです。
1年も時間をかけるなんて…
これは期待が膨らみます!
こだわりのポイント① 伏せ縫いでのオールソール
今回は伏せ縫い、ヒドゥンチャネル仕様でオールソールしました。
チャーチの靴って出し縫いがむき出しのオープンソールなんじゃないの?
そうおっしゃる方はかなりの靴好きさんですね!
そうです!確かに、現行のチャーチのほとんどが、オープンソールになっています。
今、チャーチが展開している最高級ライン「クラウン・コレクション」くらいでしかヒドゥンチャネル仕様のものはないのですが…
昔のチャーチは伏せ縫いしていたものもチラホラあるんですよ。
それは60年代後半から70年代初頭のいわゆる2都市ロゴの「旧旧チャーチ」、さらに60年代後半以前の都市名の記載がない「旧旧旧チャーチ」のころに見られた仕様です。
今回オールソールした旧チャーチは3都市表記ロゴで、おそらく70年代後半から80年代中頃に作られたものであったため、オープンステッチでしたが、昔のチャーチを偲んで、伏せ縫いにしてみました。
せっかくのレンデンバッハにしたのにオープンソールというのも、なんだか勿体ない気もしたのも理由の一つですが(笑)
こだわりポイント② 真っ黒のカラス仕上げに
そしてソールはご覧の通り、真っ黒にステインで染めてもらいました。
いわゆるカラス仕上げです。
ヒドゥンチャネルのカラス仕上げ…
これも「旧旧チャーチ」以前に見られた仕様です。
実際私物の旧旧チャーチの「Messenger」を見てみると…
このようにヒドゥンチャネルのカラス仕上げ(だけどなぜか、半カラスのように真ん中で線が入っている)になっています。
これもひとつ、昔のより時間を掛けて作られていたであろうころのチャーチを偲んで、このような仕上げにしました。
カラス仕上げにすると、「JR」の型押しのロゴがカッコいい!
ここに「Church’s famous English Shoes」の型押しが出来れば良いのに…。
ここでちょっと話がずれますが、旧チャーチは都市名の表記で、製造年代を判別します。
ですが、ソールの土踏まずに刻まれている刻印でも製造年代をより絞っていくことができます。
都市表記なしの60年代の旧旧旧チャーチは「CHURCH」と型押しされていることが多いです。そして、このMessengerにあるような60年代後半から70年代初頭製作されたであろうものは
このように「Church’s famous English Shoes」になっています。
70年代中頃以降は「Custom Grade」とだけ表記されているものへと変化していきます。
今は「Custom Grade Made in England」ですね。これは80年代ころから、ほぼ変わりません。下の写真は同じカラス仕上げになっている「Messenger」の80年代中ころの製造品になります。
こうみても、昔のチャーチがどれだけ手をかけていたかがわかります。なんて言ったって立体感が違います。同じラストを使っているはずなのに…。釣り込みにも時間をかけられたんでしょうね。
レンデンバッハソールの靴を実際に履いてみました
さてさて、話が逸れたので、本題に移りましょう。
今回オールソールをしてくれた職人さんはこういっていました。
「普通のレザーソールのものと違って、裁断が難しかったです。とにかく硬いんです。
明らかに革の目が詰まっています。密度もあってオイリーな印象です。粘りがあるので丈夫なことは間違いないでしょう」。
そこまで言われると期待が膨らみます!!
で、早速履いてみました!
履くととても軽い印象。あとで手に持ってみたのですが、オールソールをする前よりも軽かったです。
履いて改めて気が付いたのですが、とにかく硬いです。その硬さも嫌な感じの硬さではないんですね。足裏に硬さによる痛みがないというか。ちょっと言葉では表現しにくいのですが…。硬いので、削れにくさもあります。
履いてもう5回くらいになりますが、真っ先に削れやすい、つま先もなかなかに削れてきません。
レザーソールの場合、つま先が削れて来ると、革の繊維が毛羽立ちますが…
レンデンバッハの場合の場合、革が密になっているためか、バサバサとしていません。
また、削れにくさをよく表しているのが、型押しのロゴがなかなか減らなかったということ!
良くご覧いただくと、「JR」の上にあった花びらのようなロゴが若干残っています。
恐るべき耐久性!これは驚きですね。
そして、もうひとつ気が付いたことは馴染みが良いという事!
しっかりとソールが足についてくるように返りがついて馴染んでくるのがわかります。この感覚はラバーソールでは得られない感覚です。硬くて丈夫なのに返りは良いって…。
もう、ここまでくると出てくる感想はひとつ…
なんて出来るソールなんだ…!
安いラバーソールよりも丈夫そうです。
レンデンバッハは高級レザーソールになりますので、使用した場合、値段もそれなりにします。
例えば、ユニオンワークスさんでは+3,000円のアップチャージのようです。
http://www.union-works.co.jp/repair/gentlemen/
レンデンバッハソールを使用した場合、アップチャージはおおむね3,000円から7,000円前後の様です。
ただ、それに見合うクオリティーは間違いなくあります。
レザーソールが好きだけど、すぐに減って困ってる、という方はぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
最後に 今回話題になった旧チャーチについて
以前の記事をみると、大したことないじゃん、と感じられる方もいらっしゃるかもしれません。ただ、60年代後半頃の製品というと、それはもう別格のクオリティーです。
だから、私は作りに関しては、旧チャーチではなく、旧旧チャーチになってくると、より靴好きをうならせるようなものになってくると自信をもってお伝え出来ます。
そういったわけで、次回は旧旧チャーチのレザーソールについて、紹介したいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございます。