ビンテージの革靴と雨の日について

「昔の靴の方が、作りも丁寧で革も良かった。」

これは、革靴好きな方なら一度は聞いたことがあるだろう決まり文句でしょうか。

この意見に対して、私も同意です。

明らかに革の質感が現行のものと比べても違うんです。

具体的には革がめちゃくちゃ柔らかいんです。それでいて、革の厚みが薄いというわけではなく、ちょっと磨くだけですぐに光るんですね。

※ちょっと話が逸れますが、よく聞く「革の厚みが違う」という意見に対して一言。

革の厚みに関しては、昔の靴を持ち上げるために言われる言葉のような気がします。ちょっと言いすぎなような…。厚み自体はぶっちゃけ変わんないと思います。

ただし、そのしなやかさと光沢感の出方、それに伴うシワの入り方、全てのレベルが現行のものとは違います。

ハッキリ言ってしまいますが、、、

現在既製靴の最高峰といわれる、ジョン・ロブ(既製品)の靴よりも、70年代から80年代くらいのチャーチあたりの靴の方が、丁寧ですし、革も段違いで良いです。

20数万円の新品の靴よりも、ヤフオクに出品されている中古の30年くらい前の靴の方がいい場合が多いはずです。

とはいえ、ジョン・ロブは間違いなく現在の靴の中では、作りも革質もトップです。

正直、作りの面ではチャーチのレギュラーラインではとてもジョン・ロブには対抗できません(最高級ラインのクラウンコレクションなどであれば話は変わってきますが)。

それにチャーチのレギュラーラインの革だって素晴らしいのです。値段に対してしっかりとしたパフォーマンスを持っています。光沢感などの出方は、そんじょそこらの靴ごときでは到底足元にも及ばない品質です。

では、私がここまではっきりと品質の差があると話すほど、なぜそこまで昔に比べて靴の質が下がってしまっているのでしょう。

それにはいくつかの理由があります。

①機械が大きく変わり製造方法と製造時間が変わった

作りの部分において質に変化が起きた理由が、機械が変わったから、というところにあります。

昔の機械は、機械といえども手作業を多く入れなければならず、おのずと靴1足1足に対して手間暇をかけて作っていました。

現在は機械も発達し、手間暇を抑えることが可能になりました。同じ時間でもより多く生産できるのです。靴の品質もそこそこに大量生産が容易になったので、生産数重視になっている状態があります。生産数が上がっているのも、グローバル化による影響です。

世界中に靴を届け、国際競争に勝たなければメーカーが存続できなくなっているために、質の劣化は歯止めが利きません。

②タンナーが運営できない

革の問題で行くと、タンナー(革の製造業者)が環境問題や後継者不足などによって、運営を断念しているという背景があります。

昔は使えていた薬剤も、現代の環境基準にはそぐわなければ、新たな薬剤を使わなくてはいけないため、鞣しの方法が変わってきます。

そのため自然と昔の革と今の革で品質の差が出てくるのです。

そして、商売として成立もしにくくなってきているという極めて厳しい現実もあります。

優秀なタンナーは大手メゾンブランドに買収され、上等な革はそのブランドのために製造され、その他のメーカーには流通しなくなっているという面もあります。

また、革の鞣し技術も、長年培われ、継承されてきた職人技です。一度タンナーが閉鎖して、ノウハウが失われてしまうと、また同じような品質の革を作ることは非常に難しいのです。

③地球の気候変動

地球全体の気候の変化も大きな理由です。

ヨーロッパ原産の牛革などは最高級品のひとつですが、気候変動によって雨が降らなくなり、草に水分が十分に含まれなくなっているそうです。水分を十分に含んだ良質な草を食べれていない牛の革は、ハリがなく、ひどいシワが入るそうです。

この流れは1年や2年で止めることは出来ないですから、革のクオリティの底上げは難しい現状です。

さて、ここまでの作りと革のクオリティの話をまとめると、古い靴はメリットがたくさんじゃないか!と思われるかもしれません。

確かにメリットは多いのですが、デメリットもあります。

それがソールの剥がれです。

これは、私のデッドストックのチャーチの靴です。まだ下ろしたばかりでした。

革の質感はこの写真だけでも十分伝わるのではないでしょうか。

とにかくめちゃくちゃ良いんです。現行のチャーチと比べると、大きな品質の差を感じずにはいられません。

昨日雨に降られたら、縫い糸が切れ、ウェルトと本底がぱっくりと分離してしまっています。中のコルクまで丸見えという始末です。

縫い糸が切れているので、接着剤でつけても無駄です。こうなったらオールソールするしかありません。

時間の流れによって、接着剤と縫い糸が劣化してしまったのでしょう。

そこに雨水がしみ込んだことによって、完全に分解してしまった形です。

今まで何足もデッドストックのビンテージシューズを手にしてきましたが、これは決して珍しい現象ではありません。

体感としては、10足あればうち3~5足くらいはこんな風にソールが分解してしまうでしょう。

3割から5割くらいの確立ですね。結構多いんです。

逆に、雨に降られようがぴんぴんとしている50年以上前の革靴もあります。

どれくらい内面で劣化が進んでいるのか?というのは残念ながら目視で判断ができません。

ですから、履いてみないとわからないというのが、答えになります。

今回のケースは、もちろんオールソールすれば済む話なのですが…

ソールだけでなく、先ほど褒めちぎっていたアッパーの革も場合によっては、、、ということがあります。

アッパーの革も長い月日が流れる間に、日光などに当たって、くたびれていることがあります。

そういった革はいくら保湿を施しても、あるとき不意に革が裂けるということがあるのです。

一番起きるケースが、足入れしたときに吐き口周りがパックリと裂けるというもの。体重に耐え切れなくなってしまうわけです。

もちろんこの靴もオールソールをした後に、そんな運命が待ち受けているのかもしれません。恐ろしや。

そんなこんなで色々とビンテージシューズのメリットとデメリットを語ってきましたが、やはり現行品にない風格と、質の良さを見たらビンテージシューズに手を出さずにはいられません。

ただ…

ビンテージシューズを履くときは…特にオリジナルのソールのままの時は、雨の日は避けたほうが賢明。これ、絶対。

今回の記事はいくら同じ目にあっても反省しない自分への戒めにもしておこうと思います…。

神様どうかこれ以上、この素晴らしい靴にトラブルが起きませんように。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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