前回までトリッカーズの歴史や、カントリーブーツのMALTONとSTOWの違いなどについて紹介してきました。
やはりトリッカーズといえば、MALTONとSTOWに代表される武骨なカントリーブーツのイメージが強く、事実トリッカーズ=カントリーブーツといっても過言ではないほど、ブランド自体が世界中からカントリーブーツの代名詞としての認識があります。
しかし、トリッカーズは、製造の全てがカントリーブーツのようなカジュアルシューズを作っているわけではありません。
カントリーブーツの陰に隠れがちですが、実はスーツなどに用いるドレスシューズの面でも、実用性とイギリス靴らしい男らしい雰囲気を兼ね備えた素晴らしい靴を生み出しています。
目次
ドレスシューズライン 1829コレクション
トリッカーズのドレスシューズのコレクションの1つに、創業年を冠した1829コレクションがあります。
高級皮革を使い、180年以上の歴史によって培われた技術を出し惜しみなく注いだのがこの1829コレクションです。
同コレクションのモデルは全てラスト4537を使用した、スマートなフォルムになっています。
もちろんトリッカーズのドレスシューズもベンチメイド。1つの靴に対し、全ての工程を1人の職人が責任をもって作り上げるという、昔ながらの作り方を1つの売りにしています。手作り感のあふれる靴は今探してもなかなか見かけることはありません。
価格帯もイギリス靴の中で、比較的求めやすい価格に設定されており、価格に対する質の良さはずば抜けています。
それでは、早速トリッカーズのドレスシューズのあるモデルを紹介していきましょう。
BELGRAVE(ベルグレイブ)というアデレードクオーターブローグです。
Tricker’s BELGRAVE(ベルグレイブ)
トリッカーズらしからぬ、繊細な雰囲気も持ったドレスシューズがベルグレイブです。
ベルグレイブというと、クロケット&ジョーンズのハンドグレードラインのベルグレイブも思い起こさせますが、このトリッカーズのベルグレイブもなかなかに綺麗な靴です。
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インソールのロゴになっている、イギリス王室御用達を示すロイヤルワラントの称号が、その品質に関して安心感を与えます。
ラスト4537はウィズはしっかりと確保されていますが、指先にかけてシェイプをかけているので、ぼてっとした野暮ったさはあまりありません。
むしろアデレード型(紐の周りをくるっと囲んでいる曲線。その形がアデレード=竪琴のように見えることから、このように呼ばれます)になっているクオーターブローグは上品そのものです。
そして本底のレザーソールも、出し縫いをきちんと革で伏せたヒドゥンチャネル仕様になっており、トリッカーズの武骨さがいい意味で抑えられています。
またピンギング(ギザギザのこと)の処理も丁寧で、とにかく見た目に美しい靴です。
トウはイギリス靴らしいスクエアトウ。このスクエアトウがブリティッシュな雰囲気を倍加させます。
トウのキャップラインとアデレードの間の間隔が短めに設定されているため、全体の寸が短く見えます。
この寸が短いというところも、昔ながらのイギリス靴らしい雰囲気です。
今ではどのイギリス靴ブランドでも寸の短い、本当のイギリス靴らしい雰囲気を持った靴を作っているところはほとんどありません。
そういった意味ではこのコレクションは、貴重なイギリス靴の原風景を私たちに提示してくれます。
このようにドレッシーで、一般的なトリッカーズのイメージを小気味いいくらい裏切る、この1829コレクションですが、トリッカーズらしい堅牢な作りは失われていません。
まず、グッドイヤーウェルト製法によって作られたこの靴は、もちろんオールソールが可能です。
また、アッパーに採用されている革も、厚く丈夫なものになっています。グッドイヤーウェルト製法でいくら底が直せても、アッパーの革がクラックしてしまったら、そこが1つの寿命になってしまいます。
トリッカーズはアッパーの革もソール同様に耐年数があるように、丈夫な革を使っているので、長年愛用していただける靴に仕上がっています。
どのブランドも値段が上がっている今のインポートシューズ市場の中では、その価格と作りの内容のバランスがここまで取れている、いえ、価格以上の質を持った靴はなかなかありません。
ピンとくるドレスシューズが見つからない方は、このベルグレイブをはじめとする、トリッカーズの1829コレクションをチェックしてみてはいかがでしょうか。
最後まで読んでいただきありがとうございます。