旧チャーチ 品質は本当に良いのか?ビンテージシューズ激論

いきなり関係ない話になりますが、木枯らしにやられて、昨日風邪をひきました。

それで記事更新も1日2日ほどお休みを頂いてました。

木枯らしの中、外を駆けずり回る仕事もつらいものです。

今日は喉が腫れてしまって声が出ません。

喉がやられて声が出ないなんて、社会人1年目の春にやって以来…。

運良く?休日出勤分の代休をあてていた日なのでポチポチと布団の中から記事更新。

布団の中でゴロゴロしながらネットサーフィンをしていると、ふと一時期ほどビンテージシューズに盛り上がりがないと感じたのです。

あくまで私の体感なんですけどね。

ビンテージシューズをインターネットで調べると、まず出てくるのが、その作りの良さが良いと褒め称える内容。

出し縫いのピッチが細かくて綺麗で、現行品よりも丁寧に作られているだとか、革質が良いだとか。

メリットばかり語っているのですが、デメリットに関して語っているところは少ない。

以前雨の日とビンテージシューズについての記事を書きました。

→その時の記事はこちらから

ビンテージシューズはノリなどの劣化が進み、雨に濡れると、底が一気に剥がれてくることがあります。こうなるとオールソールが必要です。こればっかりはしょうがないです。

私の旧チャーチがこうなりました。

旧チャーチというと、ビンテージシューズの代名詞ともいうべき靴で、年代によって仕様や作り込みが違うと、とにかく現行品よりも素晴らしいと持ち上げる内容の記事が多いのですが、果たして本当にそうなのでしょうか?

ちょうどオールソールをしなければいけない、旧チャーチが手元に出来たので、先日オールソールの依頼に修理屋さんに持って行きました。

その際、靴を分解したら1度その中身を見せて欲しいと頼んだところ、快く承諾頂いたので、

半ば神格化されているビンテージシューズの「作り」に関して、その実態を見ることができました。

今回の記事はそのレポと、ビンテージシューズのメリット・デメリットを語りたいと思います。

目次

旧チャーチの作りは評判ほど大したことがなかった

まず結論からですが、旧チャーチの作りは評判に聞くほどの作りではありませんでした。

少なくとも私が持っているものに関しては、です。

はい、これが分解した写真。

チャーチは典型的なイギリス靴の製法、グッドイヤーウェルト製法を採用しています。

ここで参考にしたいのが、グッドイヤーウェルト製法の分解図

ソールを取り付けるにあたって、縫いシロとなるウェルトを取り付けるすくい縫いと、その縫いシロのウェルトとソールを縫合する出し縫いの2回に分けて縫いをかける堅牢な作りです。

この製法はソールの交換が容易なため、長年履き続けることができるのも良い点です。

よく見ると、一番外側の出し縫いとすくい縫いが重なっているところがあります。

ダメな靴のポイントとして、グッドイヤーウェルト製法の出し縫いとすくい縫いが重なるという点があげられることが多いです。

その理由は単純に雑な作りということもありますが、すくい縫いが切れてしまうと、ウェルトが分解してしまい、底がしっかりと縫合できないという致命的な欠陥が生まれてしまいます。

そういった意味で、この靴はあまり良くありません。

2つの縫い糸が若干重なっていましたが、幸いなことにこの靴はすくい縫いが切れていませんでした。

修理屋さん曰く、もう一度縫い合わせる時は、下手にいじらないで、元穴に従って、縫い上げるそうです。すくい縫いが切れてさえいなければ、特に問題はないそうです。

「実質問題はないんですけど、作りが良いなんて言われているから、ちょっと残念ですよね」という言葉を頂いてしまいました(笑)

雑誌なんかで「チャーチの靴でこのような(すくい縫いと出し縫いが重なるような)靴はない」なんて紹介されていますが…。

現実としてありました(苦笑)

しかも、今よりも作りが良かったといわれる昔のチャーチにおいて、です。

この修理屋さんはフラットな目線を持っている方で、「雑誌とかネットとか、良いことばかり好き勝手言いたい放題してますから、鵜呑みにしないほうがいいですよ~」という意見をきちんと持ち合わせていました。

さらにこんな話もしてくれました。

「よく作りの面で悪いと言われる同じイギリスのクロケット&ジョーンズの靴では、今回お持ち込み頂いた旧チャーチのように縫い糸が重なっているものはほとんどありません。現行のチャーチでもここまで縫い糸が重なっているのは見たことありません。でも、きっとあるんじゃないですか?人がやることですからね。それが100分の1の確率なのか1,000分の1の確率なのかはわかりません。

もしかしたら今回は、作りが良いと言われている、この旧チャーチがたまたま10,000分の1の確率でこんな靴が出てきたのかもしれませんし。

でも、冷静に考えて昔の方が良い作りをしているって、ちょっと変じゃないですか?じゃあ今の職人さんの技術はどんどん退化しているの?って話です。」

ズバリとした意見。勉強になります。

特に今回感じたのは、

出し縫いのピッチが細かいから、きちんとしている、というのは嘘ということ。

実際今回の旧チャーチは確かにピッチの間隔は現行のものと比べて細かかったです。ただ、蓋を開けてみたら…ステッチの細かさ=良い品質の証っていうわけでもないんですね。

でも、良いところももちろんありました。

カカトの鉢巻を固定するためにウッドペース、つまり木釘が打たれていたことです。

※爪楊枝みたいなのがウッドペースです。

木釘は水分を含むと膨張する木の特性を使って、より強固にパーツを接合するために使っているそうです。

先人の知恵ですね。

昔から受け継がれてきた、職人の技を感じることができるのは、面白いところです。

ただし、木なので腐ってしまうことがあるようで、現行のチャーチも含めて、今は普通に金属の釘を使っているそうです。どっちが良い、悪いということはないですが、よりクラシカルな感じがして面白いですね。

メリットとデメリットが表裏一体だとよくわかる部分ですね。

そしてアッパーに使われている革!

これは職人さんもほめていました。

やっぱり光沢感が違うんですよね。そして、圧倒的に柔らかいんです。もちもちとして弾力のある革は、ビンテージシューズならではです。

私も今、このレベルの革はジョン・ロブでも、もはや手に入れることが出来ない革だと思います。

それはこのサイトで何度も言ってきたように、革製造を取り巻く環境が、地球規模で変わってしまっているからです。

ちゃんと降るべき季節に雨が降らず、水分が十分に含まれていない草を食べた牛の革は、やはり良くないそうです。

さてさて色々なことをを吸収したところで、改めて旧チャーチをはじめとした、ビンテージシューズのメリットとデメリットをまとめていきたいと思います。

ビンテージシューズのデメリット

①ソールが突然剥がれたり、割れたりする

 これは、今回起きたとおり。

②革が突然裂けたりする

 履いたらいきなりカカトの部分が裂けたりした、というブログがありました。恐ろしい。

③革の劣化が早い場合がある

 これは私のまた別の旧チャーチの靴の話です。デッドストックで手に入れたこの靴は、革の光沢感も抜群ですが、履き皺が細かく入ってしまっています。やはり時の流れには勝てないのでしょう。そして、履き下ろして1年近く経ちますが、土踏まずの部分にうっすらとしたクラックが!

こういうところは普通クラックが起きないんですけどね…。

④作りが特別良いわけじゃないものもある

 これも今回の例の通りです。

色々とデメリットがありますが、何よりのデメリットはこれらのデメリットが起きるか起きないかは履いてみないとわからないということです。

僕のようにビンテージシューズに手を出さないほうがおススメです。

今回の旧チャーチも履き下ろして2~3回目に通り雨にやられて剥がれたのです。こればっかりは時の運です。

実際、私が持っているこれよりも製造年代が古い旧チャーチの靴は雨に降られても、問題なく履けています。

でも、何かしらのトラブルが起きる可能性があると考えていたほうが気が楽ですね。ビンテージシューズは道楽の世界です。

ビンテージシューズのメリット

①廃盤になった名作が履ける

この旧チャーチも廃盤となったラスト73を使った靴です。

現行のラスト173とは違った朴訥とした古き良きイギリス靴を感じられるのは良い点ですよね。

このように現行品にはない佇まいを感じられるのは、ビンテージシューズならではです。

②革質が良い

今30万円出しても、ビスポークでオーダーしても手に入らない品質の革が2~3万も出せば手に入るのがビンテージシューズ最大のメリットです。

革靴の最大の醍醐味は、やはり革の良さを味わう事。

サッとブラッシングをするだけで、ピカピカと輝きだす様子は何とも言えません。

いくら現代の革を頑張っても磨いても、この光沢感は超えられません。

ビンテージの革と現代の革と、そのスペックの差はあまりにも大きいと感じます。

電車の中に乗っていても、ここまで光沢感を出している靴はおそらくないでしょう。

また、革が柔らかいので、履き馴染みがとてもいいんです。

例えば旧チャーチも、グッドイヤーウェルト製法で硬い靴と言われていますが、それを全く感じさせません。

現行品と比べても、履き馴染むまで時間が本当に短く済むのはうれしいですよね。

③ステッチやピンギングが細かい

ステッチの細かさ=品質の良さではありませんが、それでも細かいほうが、キリッと見えるのは当然です。明らかに手間暇がかけられているのがわかりますしね。

これが今回修理に出した旧チャーチで…

こちらが現行品。

比べてみても、ギザギザの山が旧チャーチのほうが細かいですし、ステッチも細やか。

アッパーのピンギング(ブローグシューズにあるギザギザの部分)が丁寧に施されている靴は見栄えが良いです。

ビンテージシューズを持ち上げるのは学生時代の恋人を美化するのに似ている

と、まあこのようにメリットとデメリットを出してきましたが、ここで思ったのが…

ビンテージシューズを持ち上げるのは、学生時代の恋人を美化しているのとよく似ているということです。

今恋焦がれている人に、あれやこれや良い妄想ばっかりするのにも似ているかもしれません。

昔付き合っていた女の子と久しぶりにあってみたらガッカリしたということはありませんか?

また、憧れのあの子と実際デートに行ってみたら、全然思った人と違って期待外れだった…と。

これと同じです。

手が入らないものに恋焦がれている間は問題点も目をつぶってしまいがちです。

冷静に考えたらわかることですが(恋も頭が冷えると現実に気付きますが)

メリットしかないものなんてこの世に存在しない

ってことですよ。

どんなものでも、良いところがあって悪いところがある。ビンテージシューズも同じ事が言えるわけですね。

何十年も前に作られたものがまた使えるって凄くない?

今回の記事を読んでいただくと、ビンテージシューズ=そんなに良くないよ、という風に感じるかもしれませんが、何十年も前に作られた革靴が今なお現役で履けるという事自体すごいことではないでしょうか?

おそらく今回の旧チャーチは仕様から見て、80年代初頭に作られたものだと思いますが、その通りだとすると、35年近くも前に作られたものです。

それが普通に履けるようになるというのは、やはり作りもある程度しっかりしていて、素材もいいものでないといけないはずです。

作りに関しては、100点満点ではなかったかもしれませんが、革に関しては200点!

今回の旧チャーチも、修理屋さんも、問題なく履けるとおっしゃっていましたし、仮にウェルトがダメになっても、中底さえ生きていればすくい縫いをもう一回やれば良い、という頼もしい言葉を頂きました。リウェルトの修理代は高くつきますが…。

何より、多くの月日を経て、今、自分の手元にやってきたという靴の旅に思いをはせると、自分と靴の出会いがやたらと神秘的な感じもするのです。

ということで、私も最後の最後でやはり「昔の恋人を美化」してしまいました(笑)

自分の持っている靴ってみんなそんなもんじゃないでしょうか?

あばたもえくぼ。

この靴、大切に履いていきます。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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