先日とんでもない靴を手に入れてしまいました。
いやいや…これは資料的価値も高い…。凄い、物凄い靴です。
マニア失神級のレベルの靴ですね。
それは質実剛健を絵に描いたようなイギリス靴、グレンソンの靴。
製造年代はおそらく1970年代ころ。
当然、ティム・リトル氏がグレンソンのプロデュースにかかわるよりも、ずっとずっと昔のこと。
当時、グレンソンの靴は日本にはまだ入ってきていなかったのではないでしょうか?
そういう意味でもこの年代のグレンソンの靴を日本で手にするのも珍しいですね。
さて、モノはというと…
こんな至って普通な茶色の起毛革のフルブローグ。
しかししかし…
よーく見ると…
「GENUINE HIPPO」
の文字がスワッチのタグに記されているではないですか!
そう!これはヒッポレザー。
カバ革の靴なんです!!
噂では聞いたことがありましたが、カバの革を手にするのも、ましてや靴になっているものを触ったことすらありませんでした!
果たして今もカバの革を使っているシューメーカーなどあるのでしょうか?
1960~1970年代。この年代の靴は本当に色んな動物の革を使った靴がありました。
ゾウ、アザラシ、シカ、バッファロー、ラクダ、トカゲ、アンテロープ、鮫…。
上記の革はいわゆる「エキゾチックレザー」と呼ばれる珍しい動物の革を使った靴です。
いずれも相当珍しい革ですが、ジャコメッティがゾウ革の靴をよく出していますし、アザラシ、ラクダの革はオーダーできるところがあります。
鮫の革もサントーニやアレン・エドモンズがやったりしていますので、全く見かけないわけでもありません。
アンテロープというのは、牛科で見た目はシカっぽい珍しいアフリカの動物。こちらの革を使った靴も、探してみると中古市場で結構簡単に見つかります。
色んな革の靴がある中で、カバ革というのは本当に珍しい靴だといえます。
しかも往年のイギリス靴のデッドストックというのが、希少性を高めています。
それではじっくりとこの珍靴を見ていきましょう…
トウはスクエアトウ。イギリス靴を地で行く角刈りのような形状。色気の「い」の字もありません(笑)
このウイングよく見ると、ウイングの形状を取っている部分は切り合わせておらず、イミテーションでパーフォレーション(親子穴)を入れているのがわかります。この芸の細かさは一体何なんでしょうか(笑)
さすがに古い靴なので、1足作るのにかけている時間が違うのでしょう、ステッチがかなり細かく入っています。
肝心のアッパーのカバ革ですが、きめの細かい起毛革です。おそらく銀面を逆立てたヌバックです。サラサラしていて、肉の厚みがあり、丈夫な感じが伝わってきます。
間違いなく雨にも強いでしょうね。
インソールにも「GENUINE HIPPO 」の文字が。グレンソンのフットマスターシリーズで展開されていたようですね。
ライニングはおそらくカバ革の裏革。ムニムニとした感覚が気持ちいいですね。
試しに足入れしてみます。
サイズは8.0。ラストをモダナイズした、チーニーの125ラストやチャーチの173ラストの現代的なイギリス靴よりも、甲周りなどが妙にゆるく、全体的にゆとりが感じられる靴です。
それでいて足長は詰まり気味。捨て寸が短いんです。足長はもう少し欲しいかなー。
ビンテージのチャーチを例に出すと、有名なラスト73を初めとして、84、81、82、149といった古いラストはいずれも捨て寸が明らかに短く設定されていて、中で足が寸詰まった感じがするものが多いのですが、このグレンソンの靴も例に漏れず、THE ビンテージイギリス靴なラストです。
履き心地はしっかりと革の厚みが感じられるのですが、驚くほど柔らかく出来ています。
ソールの方ですが、出し縫いが見えているオープンステッチ式のレザーソール。ステッチの感覚は細かく、丁寧に縫われています。
そしてヒールはこの時代の靴に良く見受けられるスタイル。もはや凶器のようなヒールです(笑)
レザーのトップリフトに釘がぐるりと打ち付けられています。
以前チャーチのビンテージシューズで、同様にヒールが釘打ちになっているものを、直さずに履いたことがありました。
釘がすり減り防止になっているのかと思いきや、全くそんなこともなく、アッという間に減っていきました。
実用性は皆無といって良いでしょう。
これってどうして、こういう風にしてたんでしょうね?誰か知ってる人いらしたら教えてください。
1970年代といえば、だいぶ道もコンクリートで舗装されて、現代と大きく変わりはないはずです…。
現在グレンソンになぜ?どういう意味で?このヒールの仕様にしていたのか問い合わせてみています。もし返答があったら、当サイトで紹介します。
以前、グレンソンが150周年記念で発表したアーカイブコレクションの靴を紹介しました。
→グレンソン アーカイブコレクション Shoe NO.1はこちらから
→グレンソン アーカイブコレクション Shoe NO.2はこちらから
→グレンソン アーカイブコレクション Shoe NO.3はこちらから
これらアーカイブコレクションの靴は現代でも通用する格好良さがありますが(もちろんそういうところまで考えているのでしょう)、この靴は全く格好良くありません!(笑)
なかなかコーディネートに入れるのは難しいフォルムになっています。
でも逆にだからこそ、このカバ革のビンテージシューズも復刻してくれたら面白いんですがねぇ。
フォルムだけ、モダナイズして。
やはりカバ革は手に入らないのでしょうか?
当時はもっと珍しいクジラの革を使ったものや、トナカイの革などもあったそうです。
クジラの革なんて、どんな革なんでしょう?全く想像もつきません。
見た目は格好良くなくても、オーラは半端ありません。
おおらかな昔の匂いをそのままに詰め込んだこの靴はそれだけでいいんですよ。
それだけで、いるだけでいい…
そんな靴なんです。
これだけの珍靴です。色々と疑問点もあるのではないでしょうか。
何か質問等がありましたら、お気軽にコメントください!
最後まで読んで頂きありがとうございます。