偉大な着こなし

今、ドレス界においてファッションアイコンとなる俳優はあまり見られません。

ついこの間、フジテレビで「SUITS」というドラマをやっていましたが、痺れるほどのカッコよさというものは個人的には全く感じませんでした。

テレビが下火、芸能人が憧れの対象にならないというのは、圧倒的にカッコいいと思わせる人がいなくなったからではないかと私は個人的に思ったりしています。

「それが好き、嫌い」

「着こなしのルール的に正しい、正しくない」

そういったことを置いて、頭にガツンと来るような痺れる着こなしをしていないと感じます。

「気恥ずかしいし、俺には到底あの雰囲気になれないのはわかってるけど、ちょっと真似したい。あんな格好してみたい!挑戦してみたい」と思わせることがないのです。

私は偉大な着こなしというものは、強いこだわり、その着こなしに対する着る人間の深い理解が得られなければ、生まれ出てこないものだと思っています。

例えばスティーブ・マックイーン。

「ブリット」での服装は今でもその着こなしが男の手本として紹介されるほどです。

ブラウンのツイードのジャケット、ネイビーブルーのローゲージカシミアタートルネック、細身のチャコールグレーフランネルのパンツにマッドガードチャッカブーツ。極めつけはショート丈のバルカラーコート。

刑事役だから、動きやすい服装がいいとマックイーンは考えたのでしょう。1960年代当時としては異例の短丈のコートを着ています。

これがめちゃくちゃカッコいい。マックイーンはファッションのみならず、車をはじめとして、あらゆるものに強いこだわりを持っていたという話はよく聞く話ですが、こだわりがあるということは、それに対して深い含蓄があることの裏返しです。

ちなみに盲点となるのが、このマックイーンが着ているようなカシミアのセーター。
映画をきちんと見てから、自分のファッションにこのセーターを取り入れようと探し始めると、似た雰囲気のものが全く見つからないことにほとんどの方は愕然とするはずです。

簡単そうに見えますが、このマックイーンセーターにたどり着くのは至難の業です(苦笑)

マックイーンがこだわってチョイスするものですから、こちらもそれなりの気合、こだわりをもって探さないといけないわけですね。(マックイーン時代には普通に出回っていたであろうものは、製造に手間暇がかかるためか、絶滅の危機に陥っているというのも理由のひとつです)

007役で有名なショーン・コネリーは完全な労働階級出身の俳優であったために、スーツを着る習慣がありませんでした。

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そこでテレンス・ヤング監督は自分の行きつけのテーラーでスーツを誂えさせました。寝るときも含めてコネリーにスーツを着させ、完全に「スーツの着方」を叩き込ませ、喋り方、歩き方、食べ方すべてをジェントルマンに仕立て上げたというから凄いですよね。そうして今も続く007シリーズは誕生しました。

ブリットもジェームズ・ボンドも計算されつくした上で生まれたものというわけです。そこに人を惹きつける何かが生まれるのでしょう。

極めつけはオードリー・ヘプバーンと共演したケーリー・グラントの出演作「シャレード」。

劇中において、ケーリー・グラントはスーツの下のボタンを留めて、上のボタンを外すという「奇妙な着こなし」をしています。(※良い子の皆さんは絶対に真似してはならない!(笑)ケーリー・グラントですらおかしく見えるんだから…。)

シャレードのケーリー・グラントのスーツに関してもたびたび話題に上がるところでありますが、この落ち度に関して触れているところは少ないですね。

この下のボタンをとめるという異例中の異例の着こなしはちょっとやりすぎてしまったのでしょう。一説にはそれでもおかしくないように、そういうスーツを仕立てたという話も聞いたことがあります。

ともかく着こなし上のこの重大な欠陥に誰も触れずに、そのカッコよさだけフォーカスされて独り歩きしているケーリー・グラントもやはり偉大です。

ケーリー・グラントはフランネルの王様「フォックス・ブラザーズ」のフランネルを愛用していたことでも良く知られ、今なおフォックス・ブラザーズのインスタグラムにアイコンとして出てきます。このことからも良く装いというものを知っていたということでしょう。

その点、本当に今の俳優というのは着こなしの参考になる人が少ない…。

「SUITS」とハリウッド映画では予算のかけ方が違うと言えばそれまでなのでしょうし、協賛企業のアイテムの着用は必須なのでしょうが…

でもこだわっている人であれば、必ず着るものに注文をつけるはず。

勝手な想像ですが、ほとんどの人が劇中において、スタイリストが選んできたスーツに袖を通して終わりなのではないかと思ってしまいます。

偉大な着こなしは、深い知識・理解がないと成り立たないのです。

もっとファッションの面で、真似したくなるような俳優は出てこないものでしょうか。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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